糖質研究の最前線でチャレンジし続ける

糖鎖基盤研究

未知の領域だからこそ糖鎖研究は面白い!

糖鎖の分子生物学的研究は、近年本格的に始まったばかり。その構造や作用は解明されていない部分が多く、可能性は未知数。これまで積み重ねてきた研究者としての経験やアイデアを存分に試せる、とても魅力的な分野です。

高品質&低コストなバクテリアでの創薬を目指して

私は主に、遺伝子組換え技術を用いたバクテリアで、目標とする疾患に有効な糖質関連物質(新薬候補品)を生産する方法を検討しています。バクテリア内に遺伝子を導入し、代謝経路を自分の設計通りに構築するこの研究は「メタボリック・エンジニアリング(代謝工学)」と呼ばれ注目されている分野。従来、遺伝子組換えバクテリアはタンパクの製造に利用されていたのですが、私たちは糖鎖の調製に応用しました。
学生時代はウナギのエラの機能を分子生物学的な手法で研究し、卒業後はそれを応用した癌関係の研究に従事しました。現在の糖鎖研究も分子生物学という視点は同じですが、糖鎖の構造や作用は私が研究してきたどの分野よりも複雑なため、毎日の勉強が欠かせません。

アメリカで遺伝子組換え技術の真髄を学ぶ

2007年5月からおよそ1年半、アメリカの研究機関に派遣されて遺伝子組換えに関する技術を学びました。言語も文化もまるで違う環境での研究なので最初は戸惑いましたが、以前から文献を通じて専門用語に慣れていたこともあり、思っていたよりスムーズに研究生活に入れました。最初の「見極め実験」で使う菌を決めるために、調べた菌はおよそ千以上。1年近くかけてようやく1つの菌をピックアップして培養を始めたのですが、焦りと緊張もあってなかなかうまくいきません。粘り強く菌の種類や遺伝子の組み合わせを変えたり、菌の数を増やしたりしてチャレンジを繰り返した末、培養に成功したときは心底ほっとしました。
アメリカはバイオ技術が非常に進んでいて、「こんな方法があるのか!」と驚きの連続。さらに目標設定を明確にした効率的な研究計画の立案などを学び、とても有意義な期間でした。この貴重な経験を活かしつつ、今後はより高品質・低価格な糖鎖の生産技術の開発に取り組み、その成果を社会に還元したいと思います。

遺伝子組換え体の作製スタート。午前中に1週間の実験計画を立て、午後から試薬の調製に入る。

コロニーのシングル化と、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によるDNAの増幅を行う。

増幅したDNAを、ベクター(遺伝子導入ツール)の中に組み込む操作をし、バクテリアの中に導入する。

得られたコロニーを一晩培養する。

培養液からプラスミドを抽出し、組換え体を取得できたか確認。この1週間の過程を振り返る。

※本記事の内容は取材当時のものです。