1つ1つ違った「顔」を持つ細胞

Question1

日本では、「血液型で性格が決まる」とよく言われますが、これには科学的な根拠があるのでしょうか?

Answer

血液型は、ランドシュタイナーが1901年にABO式血液型を発見して以来何種類も見つかっています。この中で最もよく知られているのが、最初に見つかったこのABO式血液型です。血液型の違いは、赤血球表面などから出ている糖鎖の構造の違いで分類されています。たしかにわが国では、よく血液型によって性格が分類されますが、この「ABO式血液型」は、赤血球表面などから出ている糖鎖の構造の違いでタイプ分けされており、その糖鎖と性格との間の関係は解明されていません。

▲ A型の糖鎖をもつ血液型をA型、B型の糖鎖をもつ血液型をB型、AとBに共通する糖鎖構造部分しかもっていない血液型をO型と言います。そして、A型とB型の両方の糖鎖を持つ血液型をAB型と呼んでいます。

1990年代にABOのそれぞれの遺伝子が詳しく解析された結果、A遺伝子とB遺伝子は、「H型物質」と呼ばれる複合糖質の糖鎖部分に、それぞれ異なった糖を付加する酵素の設計図であることがわかりました。それぞれの酵素の働きで合成された物質は、A遺伝子の場合は「A型物質」、B遺伝子の場合は「B型物質」と呼ばれ、A型の人はA型物質を、B型の人はB型物質を、A遺伝子とB遺伝子をともに持っているAB型の人はA型物質とB型物質の両方を赤血球表面から出しているのです。
 

それに対してO遺伝子は、A型およびB型を特徴づける糖鎖を転移する酵素の両方を欠いた設計図です。したがって、O型の人は、A型物質、B型物質のもとになるH型物質がそのまま赤血球表面から出ています。
 

AOの組み合わせの人がA型に、BOの組み合わせの人がB型になる理由は、A遺伝子やB遺伝子が1つでもあると、H型物質が全部、A型物質やB型物質になってしまうためです。高校の生物の授業などで、A型とB型の遺伝子はO型に優性遺伝し、メンデルの法則に従うと学んだ方もいらっしゃるのではないかと思います。
 

現在、代表的な霊長類のABO式血液型遺伝子の塩基配列も明らかになっており、それをもとに血液型がどのようにしてできたのかが、推察されるようになっています。
 

しかし、現在もっとも進んだ研究でも、まだ血液型遺伝子の生物学的な意味は明らかにはなっていませんが、今後その「意味」の究明が進むことと思います。 

Question2

もし、血液型遺伝子がなくなってしまっても、不都合は生じないのでしょうか?

Answer

必ずしもそう断言できないのが、生物の奥深さであり、おもしろさでもあります。
 

例えば、胃潰瘍の原因の1つと考えられているヘリコバクター・ピロリという細菌は、H型物質を足がかりにして胃壁に潜り込むといわれています。もし人類の血液型がO型だけだったら、世の中に胃潰瘍の人があふれていたかもしれません。つまり、糖鎖によって細胞を多様化させることで、細菌やウイルスの感染を防いできた可能性があります。もちろん、この考え方は仮説の域にとどまっていますが、そう確信して日夜研究をしている人も少なくないのです。 
 

環境が変化しても生き残っていくために、生物に「多様性」が必須であることは間違いありません。ABO式血液型の遺伝子は、生物にとって多様性が重要であること、それを生み出すために糖鎖が重要な役割を果たしていることを、私たちに垣間見せてくれるのです。

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血液型物質と細胞接着の解説 
 

【参考文献】

鈴木明身:「血液型を決める糖鎖遺伝子 糖鎖の個体差は何を意味するのか」. 現代化学 248 pp.28-35(1991).