生化学工業が専門としている糖質科学は、糖質を研究する科学分野です。
糖質を構成する糖は、ガラクトースやマンノース、アミノ糖などの単糖が鎖のようにつながっており、これらを「糖鎖」と呼んでいます。糖鎖は、たんぱく質や脂質と結合した複合糖質となって、私たちのからだを構成する細胞の表面にたくさん飛び出ています。さて、糖鎖は細胞の表面でどんな働きをしているのでしょうか?
さまざまな複合糖質の種類
- 糖鎖+タンパク質=糖タンパク
- 糖鎖+脂質=糖脂質
- とても長い糖鎖(グリコサミノグリカン)+タンパク質=プロテオグリカン
糖鎖は「細胞の顔」とも言われています。それは、細胞の種類が違うと糖鎖のパターンも変わってくるからです。つまり、細胞の個性や多様性を生み出すために糖鎖が働いているのです。
糖鎖は、細胞間のコミュニケーションをとるためのアンテナの役割をしていると考えられています。たとえば、私たちが人の顔をみて相手が誰かを見分けるように、からだのなかの細胞同士は表面の糖鎖によって認識し合い、そして糖鎖を介して必要な情報のやりとりをしています。近年、いのちの誕生から老化まで、生命現象の様々な場面における糖鎖の重要な役割が明らかにされつつあり、生命科学分野で注目されているのが、糖質科学なのです。
- 生命の誕生(受精)
精子が卵子と出会い受精するとき、糖鎖が関与しています。
- 血液型を決定
ABO式の血液型は、赤血球表面の糖鎖の形によってその型が決まります。
- からだの水分を保持
水分が過剰に失われないように細胞を保護しています(ヒアルロン酸等)。
- 細胞の増殖を制御
成長因子のなかには、糖鎖によって活性が調整されるものがあります。
- からだを外敵から守る
ウイルスなどに感染した時に、マクロファージ(白血球のひとつ)を刺激して
免疫細胞を活性化します。
糖鎖と病気の関係にも注目が集まっています。ウイルスや菌などの感染症、免疫疾患、がんの発生・転移、生活習慣病など多くの病気のメカニズムに関わっているものと考えられているのです。病気にかかった時の糖鎖の形や機能などの研究が進むことで、新しい治療法や診断法の開発につながることが期待されています。
- ウィルスや菌の感染
インフルエンザウイルスなどの病原体は、細胞表面の特定の糖鎖に結合してからだに
侵入します。
- がんの転移
細胞ががん化すると、糖鎖の形が変わり、がんの増殖や転移の促進に関わります。
- 糖尿病
糖鎖遺伝子の異常が原因のひとつであるといわれています。
<参考>転移性の高いがん細胞では、正常時にはわずかしか発現していない巨大糖鎖の量が
増えることが分かっています。