生化学工業は、世界の人々の健康で心豊かな生活に貢献するために、独創的な新薬の研究開発に取り組んでいます。
生化学工業は、長年にわたり蓄積してきた糖質科学関連の技術やノウハウを用いて、アンメットメディカルニーズに応える、独創的で革新的な医薬品・医療機器を創出し、世界の患者の方々に提供し続けることを社会的使命と考えています。
当社においては、2023年3月期より開始した中期経営計画が3期目を迎えました。本中期経営計画は「成長を実現する期間」として定めており、後期開発品の着実な上市と、持続的な成長に向けた実力の養成を達成すべく各重点施策を推し進めています。
研究開発部門では、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603(米国)について、2023年5月に第Ⅲ相臨床試験の追加試験における主要評価項目において、統計学的に有意な改善効果を示すトップライン結果を取得しました。2024年5月には、この試験結果に基づいて行った承認申請が、米国食品医薬品局(FDA)によって受理されました。また、癒着防止材SI-449(国内)について、2023年7月に消化器外科領域におけるピボタル試験における、主要評価項目及び
副次評価項目において統計学的に有意な癒着防止効果を示す結果を取得しました。
引き続き、各パイプラインの早期上市を目指し、申請準備や審査対応を着実に進めていく所存です。
また、既存領域における新規開発テーマの創出に加え、糖質科学分野での75年以上の研究実績を活かした、新規モダリティとの融合を実現する革新的な研究テーマの充実にも取り組んでまいります。
海外売上高比率が50%を超える当社にとって、各部門のグローバル化も重要な課題です。海外子会社やパートナーとも連携し、より早期にグローバルに製品を届けられるように尽力してまいります。
生化学工業は、新製品を速やかかつ継続的に創出するために、研究開発の対象物質や重点疾患を絞り込んだ効率的な研究開発活動を推進しています。
創薬の対象とするのは、当社が長年携わってきた複合糖質の構成成分のひとつであるグリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan 以下、GAG)です。当社は70年にわたり、GAGの創薬研究及び生産・製剤化技術に関する多くの経験やノウハウを蓄積してきました。現在、ヒアルロン酸等のGAGそのものを医薬品として応用するだけでなく、架橋技術などを用いてGAGを修飾した物質や、GAGに働きかける酵素などの物質等も対象としています。
また、重点疾患領域としては、関節機能改善剤「アルツディスポ」や眼科手術補助剤「オペガン」等の開発を通じて知見を有する運動器疾患領域、眼科疾患領域などを中心に、新規領域の拡大にも注力しています。
当社は経営信条に「学問尊重の理念のもとに、糖質科学を基盤として有用で安全な製品を創造し、広く世界に供給して人類の福祉に貢献する。」を掲げており、糖質科学を経営基盤の中心として位置づけるとともに、学問尊重の姿勢を貫いています。これには、当社の成り立ちが深く関わっています。
1950年に当社は世界で初めて、GAGの一種であるコンドロイチン硫酸の工業化に成功しました。これが糖質科学を中心とした現在のビジネスの基盤となっています。このコンドロイチン硫酸の製造を皮切りに、医薬品原体や試薬・診断薬へも事業を拡大するなかで、糖質科学関連のアカデミアや研究機関との繋がりを深めてきました。
このようなアカデミア等との密接な関係のなかで得られたのが、GAGの一種であるヒアルロン酸を医薬品に応用するというアイデアでした。。その後、長きに渡る研究開発を経て、ヒアルロン酸を主成分とする世界初の関節機能改善剤「アルツ」の開発に成功しました。また、GAGを分解する酵素であるコンドリアーゼを用いた腰椎椎間板ヘルニア治療剤「ヘルニコア」の開発も、アカデミアとの協調に端を発するものです。
当社は今後も糖質科学に軸足を置き、大学や研究機関などとの連携を推進しながら、糖質科学領域における研究成果をもとに医薬品・医療機器を創出して、世界の患者の方々に提供できるよう努めていきます。
GAGは、アミノ糖(窒素原子を含む糖)と、ウロン酸と称される酸性の糖(もしくはガラクトース)とが、鎖のようにつながったもの(糖鎖)であり、複合糖質の構成成分として生体のなかに存在する物質です。糖鎖は、生命科学において核酸・タンパク質と並ぶ第3の生命鎖とも呼ばれていますが、その化学構造は複雑であり、構造解析や自動合成、大量合成が難しいなど、研究においては特有の困難さを持ち合わせています。
一方で、糖質科学に焦点を当てた産学官の研究プロジェクトが過去に実施されて以来、糖鎖の構造解析技術や合成技術が向上しました。また、糖鎖の合成酵素や分解酵素の遺伝子も網羅的に同定され、糖鎖の生体内における機能解明が進んでいます。
このような糖質科学技術の進歩は、当社の創薬研究とも密接に結びついています。
当社は長年にわたる研究の蓄積として、GAGの化合物ライブラリーやGAG関連酵素群、また、それらを扱うための多岐にわたる技術を有しており、創薬活動に積極的に活かしています。また、糖質科学研究者と世界的なネットワークを構築し、大学や研究機関の初期シーズに着目した共同研究を進めることでアライアンスの推進を図っています。
具体的には、運動器疾患(整形外科)、眼科疾患を対象とした創薬に注力するとともに、GAGに関する技術を活かした新規領域の拡大にも取り組んでいます。また、既存製品や開発中のテーマについて、製品価値向上に向けた検討(適応症の拡大や剤形の追加、用法・用量の変更等)も推進しています。
これまでに当社では、主にGAGの修飾・加工などによりその生理活性を高める創薬アプローチを展開しており、これに加え、現在では、GAGを活用したドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System 以下、DDS)への応用にも取り組んでいます。さらに今後は糖鎖の有する生物学的機能に着目したアプローチも取り入れ、創薬の可能性を高めていきます。
DDSについては、修飾GAGの特性を活用して、薬物の量や放出する部位・期間を狙いどおりにコントロールする技術の研究を進めています。低分子化合物のみならずペプチドや核酸などの中分子やタンパク質などの高分子といった様々なモダリティに合わせて糖質をデザインし、当社の保有するDDS技術を提供することで幅広いアンメットメディカルニーズに対応できる創薬を目指していきます。
自社開発のスピードアップを図る一方で、製品パイプラインの早期拡充のために、外部の研究機関やバイオベンチャー企業・製薬会社などからの開発テーマの導入(インライセンス)にも積極的に取り組んでいます。重点疾患である運動器疾患をはじめ、医療ニーズの高い疾患・治療法をターゲットとし、他の開発テーマの進捗状況とのバランスを計りながら導入検討を進めるとともに、内外のネットワークの強化や組織体制の整備に努めています。
生化学工業は、大手製薬メーカーと比較すると規模は大きくないものの、医薬品等の販売を他社に委ねることにより、多くの経営資源を新薬開発に集中的に投入しています。これは、売上高の25~30%を研究開発費に充てることを基本方針としていることや、全従業員の約3分の1が研究開発要員であることにも表れています。(生化学工業単体では従業員の約40%が研究開発要員です。)今後も研究開発型製薬企業として、研究開発を重視する姿勢を貫いていきます。